女装する男子は好きですか? 一迅社文庫の創刊に花を添える、とびっきりの美少女(?)学園コメディ「ふたかた」


「で結局、男性読者が好きなのは、女性の身体のキャラなのか、それとも女性の姿をしたキャラなのか。一体どっちなんだろうね」

 遠くを見つめて何を悩んでるのかと思いきや、唐突にお馬鹿な思考をひねり出し、タカオさんが言いました。

「例えば、“女性らしさ”を感じさせるのに、必ずしも本当の女性を用いる必要がないってのは、一応理解できるんだよな。女形ってのもあるくらいだし。ましてや文章の上なら尚更か。きっと今回、イラスト担当は相当苦労したに違いないぞ。まぁ、結果として上手く描かれてたとは思うけど」

 あの……。あまりに展開が唐突過ぎて、ちょっと話の流れが見えないのですが。というか私は別に、性的な部分で倒錯した作品が好きなわけでもないですし、わかつきひかる作品も初読でしたので、今作に対しては特に感慨もなかったのですけど。いや、そもそも私にそんな風に同意を求められても困りますって。

「いやさぁ、仮にも今回創刊された一迅社文庫ってさ、一応男子向けのラノベレーベルなわけだろ。電撃文庫みたいに。でも、第一弾の刊行作品にわざわざ女装少年ネタの作品をもってくるってのが、とてもとても侠気(おとこぎ)溢れる選択だと思うんだよなぁ。それにさ、全7作のうち唯一この本だけなんだぞ。カバー絵に男が描かれてるのって。しかも服脱ぎかけ。流石、『百合姫』とか出してる会社は違うってことなのか。ジェンダーとか、そういうのに壁を感じてないということなのかね」

 私としては、女装と性同一性障害って別個のものだと思ってるんですけど、いまいちこの点については、属性上区別されてないようで、普段から何となく違和感を感じてるんですけどね。別段、この作品がどうってわけではないですけど。例えば、『ストップ!! ひばりくん!』のひばりくんとか『はぴねす!』の渡良瀬準とかは後者だけど、『ゆびさきミルクティー』とか川原泉の『月夜のドレス』*1は前者でしょう。『かしまし 〜ガール・ミーツ・ガール〜』のはずむくんは……後者のようでまた別枠っぽいし、ちょっと悩みますが……。まぁ、どうでもいい話ですけど。

「あぁ、他にも、伝説の小野敏洋『バーコードファイター』*2とか……」

 そ、その名前は出しちゃダメです! コロコロ読者のトラウマを刺激すると恐ろしいことになりますよ、タカオさん! まぁ、とにかく。ラノベにつきものの"お色気担当要員"として起用したであろう わかつきひかるに、わざわざ萌える男子キャラを書かせるんですからね。やっぱりどうかしてますね。「こんな可愛い子が 女の子のはずがない!!」とか、口絵に書いちゃってる時点で、編集側の本気度の高さは十分伺えるわけですけど……。それにしても、これ、一体何のネタでしたっけ?

「ん? 確かムック本『空想女装少年コレクション』*3についてた帯のコピーだろ。あぁ、そういえば、アノ本も一迅社発行だったな。きっと狙ってやってるんだろうな」

 一体、どこまで女装男子が好きなんですか、一迅社さんはッ!

「いや、これには俺も騙された。欺かれた。てっきり“エロ物”担当だと思ってたのに、実は“イロモノ”担当だったとわな。なかなかやるな、わかつきひかる。一字違いで大違いだ。そういや、女性と女装も同じく一字違いではあるけれどな」

 誰がそんなうまいこと言えと。まぁ、えっちな要素をつぎ込む作品よりは、まだネタに走ってる方が、私としては好みに合ってるわけなんですけど。『死神のキョウ』とかで、たびたび出てくるサービスシーンなんて、どうにもあざとすぎて私には読んでて正直つらかったし。『アネモイ』の全裸シーンとかもそうですけど。どうして昨今のラノベは、やたら女の子を脱がそうとするんでしょうね。

「そういやぁ、以前某ガチロリのエロマンガ雑誌がさぁ、表紙の煽り文でスゴく秀逸な言葉使ってて思い切り笑ったんだけどさ。いわく『ライトノベルより、ちょっとエッチかも(はぁと)』*4だからな。どんだけエロいんだよ、最近のライトノベル! 『LO』とガチンコ勝負なのかよ、と」

 あの……一応ですが、このweblog、下ネタ禁止にしてますので、その点に留意をお願いしますよ、タカオさん。で、それはそうと、今気づきましたが、今回私たち、作品の内容について全然話してないことないですか? 念のため、何か感想めいたこと、残しておきませんか?

「あぁ、じゃあ一言だけ。一迅社文庫は、誤字脱字の類が多すぎる。以後気をつけて欲しい」

 えーと。そういうことを聞きたかったんじゃないんですけど……。

「それと、あ、そうだ。一迅社文庫で注目すべきはやはり、『一迅社大賞』の募集告知ページだな。締め切り、2009年9月30日、っていくらなんでも期間長すぎだろ。あと、あらすじの説明文がまた秀逸ざます。俺、例文載っけて説明してる募集って、初めて見た」

 "B館殺人事件"ですね。アレ多分、本当に作品に仕上げて投稿しちゃう人がいるんじゃないかと、私、気が気でないんですけど。まぁ、即おとされるでしょうけど。でも、内容がミステリな所とかアナグラムとか書いてあるところとか、私、深読みしちゃって、思わず杉井さんのあとがきにまた縦読みとか潜んでるんじゃないかと疑ってしまいましたよ。……もちろん、全然関係なかったんですけど。

「まぁ、そりゃ、そうだろうなぁ……。あ、一応、感想めいたことを言っておくと、俺はこの小説(『ふたかた』)、実は性別反転ものとしての意識はせずに読んでたよ。どちらかというと、赤川次郎の『ふたり』みたいに、姉妹物の感じに読めたけどなぁ」

 そう呟くとタカオさんは再び手元の書籍に視線を落とし、読書を再開しました。う〜ん。それにしても、そもそも女性か男性かで悩むのって果たして健全なのでしょうか。所詮、2次元以下の話じゃないですか。そんなの、どっちでもいいじゃないの。どうせなら、せめて3次元の世界に立ち戻ってきてから、いろいろ悩んでもらいたいものです。いや、本当に。



ふたかた (一迅社文庫 わ 1-1)ふたかた (一迅社文庫 わ 1-1)
わかつき ひかる

一迅社 2008-05-20
売り上げランキング : 40953

Amazonで詳しく見る

*1:「ゴワゴワの詰襟学生服なんて…毎日が葬式だぁ…時々俺は考える。ズボンはいた女は正常で、なにゆえスカート男は変態なんだろう?」というセリフが見事。

*2:幼馴染のオンナノコは、実は男の子でした、という驚異のマンガ。

*3:

*4: