読み逃している名作、ありませんか? 貴方に読ませたい、2009年マンガ作品紹介。その1


「やってしまって、それで事が済むものなら、早くやってしまったほうがよい*1

 2年前と全く同じ台詞を壁に向かってつぶやくと、タカオさんは鋭い目付きでこちらを見据えました。

「キミがTwitterなんぞで、いらん事をPostしたりするものだから*2、こうして急遽、私も巻き込まれる羽目に陥ってしまったわけなのだが。これについて、何か弁解のことばでもないのかね? まったく。Twitter読書メーターに依存して、本サイトの存在をおろそかにするとか、一体どういう了見なのかと小一時間……」

 ですので、突然で申し訳ないとは思いつつ、こうして検討会を開いているワケじゃないですか。最近はネタ切れ気味でしたが、ほら、ちょうど今回は、年始に昨年の総括をしていなかったので、この機会にやってしまいましょう! というわけで突発企画、2009年のおすすめマンガ、紹介放題!

「……普通、こんな時期に立ち上げる企画ではないはずなんだがなぁ」

 そんなわけで、私から、おすすめを挙げていきますよ!

環状白馬線車掌の英さん (花とゆめCOMICSスペシャル)環状白馬線車掌の英さん (花とゆめCOMICSスペシャル)
都戸 利津


白泉社 2009-01-19
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おすすめ平均

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ISBN:9784592187073


 はい。それでは、私のおすすめ1作目は、都戸利津『環状白馬線 車掌の英さん』です。2年越しで「別冊花とゆめ」に掲載された読切3編に描き下ろしを加えた1巻完結物。よほどのマンガ好きを除けば、男性読者には殆ど読まれてないのが全く残念な1冊なのですが、これはダントツで昨年の(私の中での)上半期1位を独走し続けた作品でした。これは好き。大好き。

「まず、タイトルで損をしてるとしか思えない。こんな風に“環状線”だの“英さん”だのとついたら、未読の読者は日本のどこぞのローカル電鉄を舞台にした、濃ゆい登場人物が飛び出す人間交差点な話だと勘違いしてしまうじゃないか。舞台のイメージは、むしろ海外なのにな。もったいない」

 ストーリー。市内を巡る環状線の電車・白馬線。それは、場所と場所とを繋ぐ単なる交通手段ではなく、人と人との心を繋ぎ、出会いと別れを新たに導く、奇蹟の電車でありました。電車で働く車掌の英さんは、今日も乗客の人たちに、ささやかな幸せとほんのちょっぴりの奇蹟を与えてくれます。なぜか毎回遠回り側に乗る女性、あるいは、車掌を探している人たち。これは、英さんの電車に乗った人たちの、心温まる物語。

「センスあるコマ割、キャラを彩る優しい描線。暖かな人間群像と相俟って、柔らかな絵柄が読む者の心を温める。才能はあるんだよね、この作者は。第1話なんかも、ネーム段階で相当にページ構成を考えたんだろうなっていうのがハッキリ分かる。ページを捲って『やられた!』と思う事も1度や2度じゃない。そもそも単行本が新書版ではなくてB6版だってところで、版元側の気合の入りようも並々ならぬものだと想像できるし」



この次の台詞が圧巻ッ……!



 電車はまわる。時代は変わる。因果は巡る。人は繋がる。同じ場所を行き来する環状線路面電車は、いつしか、ここではないどこかの誰ともしれない人との出会いを導く。1話目も、2話目も、ストーリーがよく練られすぎてて、最後は少しホロリと涙ぐんでしまうのですよ。

「ラストを読んだら、是非また1話に戻ると良い。この1冊の本自体も、"環状線"の一部だったんだな、と実感できてしまうから。1巻で終わらせるためか、小さく纏まりすぎな感は否めないが、実に良くできた1冊であるのは間違いない。これは、人に勧めて絶対外れない1冊ではある」

 願わくば、これを機に手に取ってみてくれる人が、1人でも居てくれれば、嬉しいのですけどね。


出会いと 別れは 同じだけあるが
一番多いのは"出会わない"だ


自分が乗る前に 降りた人たちや
自分が降りた後 乗る人たちにゃ 会えねぇ


一緒に時を 過ごせるのは
乗り合わせた 人だけだ


だから


ほんの少しでも 乗り合わせたなら
幸運だ

 そういう風に、私たちもまた、本と人との新たな出会いの架け橋となれれば、幸いであります。



*1:シェイクスピア著「マクベス」第七幕第一場冒頭のセリフ

*2:佐久良美晴 2:02 AM Mar 4th