あなたが待ち望んだ、秋山瑞人はここにいます。古橋秀之とのコラボ企画第一弾「龍盤七朝 DRAGONBUSTER 01」


「久しぶりの再開は、やはり久しぶりの新刊でこそヤルべきだ!」

 大きく右手を振り上げて、タカオさんは力強く言いました。

「とにかく、新作の出来なんかどうでもいいんだよ。生存確認ができること。それが何より最優先ではないのかね」

 なんだか、そういう表現をされますと、まるで更新してないweblogについて、自己弁護しているような気がして仕方がないのですが……*1。ともかく、作品を読むこと、記録をつけること、名作を周りに薦めること、それぐらいは続けてしかるべきではないですかね。評価して、紹介する。それぐらいでしか作者には恩返しできないんですから。いち消費者である、われわれと致しましては。

「それにしても、今回は、本屋で現物見てビックリしたなぁ。こんなにも作者名が巨大フォントで書かれた帯*2電撃文庫で初めて見たわ」

 それだけ、読者が秋山作品を待望しているってことですよ。作品名より作者名が大きく踊るってのは、どことなく少女マンガ雑誌的で、珍しいとは思いますけど、宣伝手段としての「帯」の利用法としてはあながち間違いではないでしょう。実際、タイトル名の弱さとか、中華ファンタジーって題材とか、さまざまな面で作品を紹介する上での困難さが、先に立つ気がしますから。そもそも、私たちも、秋山瑞人作品だからこそ、こうして買って読んだわけですし。

ライトノベル読者と少女マンガ読者に共通点があるかというと、どうにも微妙な気がするけどな。確かに、一般読者は[作品]に、マニアな読者は[作者]に、それぞれファンがつくって傾向はあるとは思うけど。ただ、対象年齢、というか編集側が想定している読者の年齢層ってのが、どれもあまり変わらない気がするんだよなぁ。ラノベの場合は。昔は[ちゃお]だったけど、大きくなったら[花とゆめ]で、今は大人なので[MELODY]とか[コーラス]読んでます、みたいなノリがないだろう。ラノベ読者って、昔読んでた文庫レーベルを今でもずっと読み続けてるんじゃないのかね。『せっかくだから、俺はこの赤のスニーカー文庫を選ぶぜ!』*3みたいな感じで一回選んだレーベルを、そのまま律儀に追い続ける、そんな印象がどうにも拭えないし」

 それゆえになかなか、「大人だけど、ライトノベル読んでます」っていうのは、ある意味「男だけど、少女マンガ読んでます」っていうのと同じ位に気恥ずかしさがあったのかもしれませんけどね。もっとも、最近は情勢が変わってるかもしれませんけど。本書にしても、文章はしっかりしてる上に娯楽作品としてもかなりの高水準なんだけど、いかんせんレーベルが電撃文庫って時点で敬遠する人も居るんじゃないかなぁと思いますし。

「この本は凄いよ。序章を読むだけで、秋山の筆力がまた一段階レベルアップしていることがよく分かる。そりゃ、こんな密度の濃い文章書いてたら、一冊出すのにおそろしいくらいの時間がかかるのは当然だわ」

 あまり、中高生向きに書かれてるとは思えませんね。イラストについても[イリヤ]と同じで、カバー・口絵・扉絵以外の「挿絵」が一切見られないですし。ある意味、「硬派」なつくりなんですけど。

「でも、中身はそうでもないぞ。やっぱり、ボーイ・ミーツ・ガール……じゃなかった、ガール・ミーツ・ボーイか。そんな感じになってるし。それだけに、序章の凄まじさが際立ってると言えなくもないけど」

 ラスト部分で月華の絵を描く涼狐の場面がありますけど、あれなんか典型的な秋山節の描写ですよね。わたし、思わず[イリヤ]に出てきた散髪のシーンを思い出しましたよ。秋山瑞人が書くこの手のシーンは、両者の視線が交錯しないことが多いんですよね。ご丁寧なことに今回は予めP.97に「他人の目をまっすぐに見るな」なんてセリフまで在るくらいでしたが。

「伏線、とまでは言えないけどな。でも今巻は伏線だけならかなりの数、用意されてるんで、本当に次の巻で完結するのか、俺には甚だ疑問なんだけど」

 私は、完結するなら、それだけでもう、充分満足できますけどね。

「いや、それ以前に、どうして秋山瑞人は新シリーズ始めてるんだよッ! 『E.G.』*4の完結編はッ! 『ミナミノミナミノ』の続編はッ! 『おれはミサイル』*5は、いつ早川文庫で刊行されるのッ!」

 ないものねだりされても、きっと作者は困ると思うんですけど……。まぁ、長い目で見てあげましょうよ。私たちが死ぬまでには、きっと出てると思いますよ……たぶん。

「他人事じゃないぞ。そもそもこのweblogも、次回更新があるかどうか怪しいくらいだからな」

 ――こうして、生存確認のやりとりは終わり、また沈黙が訪れたのでした。


龍盤七朝 DRAGONBUSTER〈01〉 (電撃文庫)

龍盤七朝 DRAGONBUSTER〈01〉 (電撃文庫)

*1:約4ヶ月ぶりの更新なので、言い訳めいて聞こえるわけです。

*2:参考: やっぱり作者名が大きすぎる。

*3:元ネタは、セガサターンにおける伝説のクソゲー「デス・クリムゾン」の主人公・コンバット越前のセリフ「せっかくだから、俺はこの赤の扉を選ぶぜ!」 ここで赤色がスニーカー文庫となっているのは、ハルヒのせいか、それともガンダムのためなのか。

*4:電撃文庫E.G.コンバット』のこと。秋山瑞人デビュー作。なお、上記の「デス・クリムゾン」ネタは、この作品とコンバット越前をかけているようなのですが、今回わたしは敢えてスルーしている。

*5:SFマガジン」2002年2月号,4月号掲載。第34回星雲賞(日本短編)受賞作。