読み逃している名作、ありませんか? 貴方に読ませたい、2007年マンガ作品紹介 その2。
「ブレイク〜 ブレイク〜 あなたの街の〜」
タカオさんが突然、「日本ブレイク工業 社歌」を唄い始めました。
「これはどうでもいい事なんだけど、よく、休憩することを『ブレイクする』って言うよな。これは、英語どおりの意味だからよくわかる。でも、他にもヒット商品になったりすることも同じく、『ブレイクする』って言うのはナゼなんだ? 一体、何を壊したっていうんだ」
少なくとも私の平穏な時間と空間はタカオさんの手によって壊されまくっているわけですが、それはともかく。突然そんな事を訊かれても当然私に判るわけがありません。「語りえぬものについては、沈黙しなければならない (Wovon man nicht sprechen kann, darüber muss man schweigen.)」とウィトゲンシュタイン先生も仰っておられる通りです。大体、休憩中ぐらい静かに休んでいて下さいよ。
「そういや英語では、"壊す" の“break”と"ブレーキ" の“brake”は同じ発音なんだろ。カタカナ表記の "ブレイク" では両者の区別はないわけだから、ある意味、ヒットしている状態であってもその内側には同時にブレーキ的な役割を果たす何かが内在していると言っても、あながち間違いではないわけだ。なんだか、こう表現すると『ビルトイン・スタビライザー*1』っぽい感じがして、格好良いよな」
屁理屈ばっかり捏ねてて退屈そうだから、そろそろ私たちの休憩も終わりにしますか。作品紹介では、暴走しないよう心のブレーキを常に掛けておくことをお勧めしますよ。
「そんな事を言われても、女の子に見とれてブレーキをかけ忘れるのは、ラピュタのパズー以来、男にとっての伝統行事だと思うんだが……」
こんなときでも、喩えは二次元限定なのですか。
ふたつのスピカ 13 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
- 作者: 柳沼行
- 出版社/メーカー: KADOKAWA(メディアファクトリー)
- 発売日: 2007/12/22
- メディア: コミック
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気を取り直して、続きに行きます。まず私が紹介するのは、昨年末発売したばかりの新刊本、「ふたつのスピカ」最新13巻。12巻で告げられた衝撃すぎる展開に、私も読後は呆然としていたわけですが、この13巻ではその出来事を徹底的に時間をかけて、少しずつ少しずつ丹念に描写しているのが非常に印象的でした。これには私も、素直に感動しましたよ。よく考えれば、「ふたつのスピカ」ってこういう話だったなぁと1巻辺りの内容をしみじみ思い返したりしましたし。ここのところすっかり、夢を共有する若者たちの爽やか青春学園ドラマみたいになっていたので、完全に油断していました。これでもかこれでもかと紡がれるささやかなエピソードの連続に、私の涙腺はもう、崩壊寸前でしたしね。
「うん。柳沼行らしからぬ大ゴマの多用には、正直驚いたもんな。"余白の美"って言うヤツ? 何も描かれていない部分が、かえって喪失感を主張するというか、まぁ一歩間違えれば単なる手抜きと思われるかもしれないわけだけど、実にいい演出だね。しっかし、逆に、どんどん希薄になっていくライオンさんの存在がなんとも言えない。他にもストーリー上、仲間についてはここまでで既に、万里香の病気と府中野の色覚異常がフラグとして立ってるわけで、もしかしたら今後、櫛の歯が抜け落ちていくようにドンドン修羅場が待ってる可能性もあると思うけどな」
ダメです。もうこれ以上は泣けないです。だから後しばらくはせめて、耐えて欲しいです。ただでさえ、感動系には私、弱いんですから〜。
- 作者: ざら
- 出版社/メーカー: 芳文社
- 発売日: 2007/03/27
- メディア: コミック
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「じゃあ、次ね。昨年大躍進した芳文社四コマ系作品の中から一つ、ざら著『ふおんコネクト!』 いや、純粋にこのマンガは面白いよ。キャラクタを描くときの線の細さが、萌え系マンガ雑誌には似つかわしくないのでメインの読者には敬遠されがちかもしれないけど、とにかくネタの幅広さと深さは他の連載作と比べても随一なのは間違いない。毎回、コマの隅々まで見ておかないと用意されたネタを堪能したとは言えないくらいに高密度さがあるから。なんとなく、作者は読者に対して挑戦しているというか試してるんじゃないかと疑ってみたくなるくらい、ディープなネタが数々展開されてる。このギャグには気づくか、このボケには的確に突っ込めるか、と読者との距離を測りながらマンガを描いてる節が垣間見えるし。たとえば P.35の左側3コマ目*2。『"んじゃあ さっき復習した 物理の方程式は?" "え え〜っと 宇宙船+密航者=船外追放?"』 それは“冷たい方程式”だ! ……などと無粋なツッコミは作中誰も行わない。ツッコめるのは読者だけ。ネタ解説など、もちろんなし。P.102の左3コマ目*3もそう。“セーブできないゲームだから電源切っちゃダメ”って貼り紙がテレビに貼ってあるけど、画面をよく見たら、映っているのは、“仮面ライダーストロンガー”なんだぞ。つまりこのゲーム、『仮面ライダー倶楽部』*4なんだ。これは笑うだろ。わざわざテレビ画面の中に、本当にセーブできないゲームを描く必要がどこにある? つまり作者は、こういうスタンスでマンガ描いてるんだとしか思えない。これは流石にもう、応援せざるを得ないわな」
マニアックすぎても、読者を選ぶだけのような気がしますが……。合羽がガッチャマンだったり*5、スノーボードがゼーレ(キール議長)だったり、学習マンガをいきなりパロったり*6。やることがイチイチ細かすぎると思うんですよ、この作品は。ただ、この作品が確実にオタク向けであり、また作者が紛れもないオタクだということは非常によく判るんですが、それ以上に、作者のざらは一般常識というか普通の知識と教養も持ってる人だと思えるので、個人的にはそこに好意を持てますが。あと、四コマ作品としては不自然なほど、絵の視点や構図にこだわった特徴的な描き方をしたりするので、その心意気には拍手を送りたいです。
「連載の方では、最近掲載されてたクリスマスの回なんか尋常ならざる出来栄えだったしなぁ。実にイイ話描くようになったよね、この作者は。とりあえず、2巻以降にも猛烈に期待したい作品ではあるなぁ」
Web連載の『みちかアクセス!』は掲載されないんでしょうかね。『とらぶるクリック!』の場合、番外編『Webクリ!!』は2巻で収録されてましたけど……。まぁ、なにはともあれ、長い目で見ないといけない作品ではあるでしょうね。
- 作者: 小山宙哉
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/06/22
- メディア: コミック
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読んで感動したり、笑ったりできるマンガは多いと思うけど、読後爽やかな気分に浸れるマンガって、実は意外と少ないのではないかと思います。てなわけで、次に私が紹介するのは、この作品。小山宙哉「ジジジイ」1巻。お金にならないツマラナイものばかりを盗む、話題の泥棒・怪盗ハープ。その正体は、神速の脚をもつ70歳のイカシたジイサンだった――。この作品は、発想がなかなか良いですね。世間では高齢化だ少子化だって言われれててお年寄りの割合は年々増加傾向にあるけれど、その割には、老人を主人公にしたマンガって少なかったわけじゃないですか。それは勿論、主人公の年齢層がだいたい主要な読者の年齢層と重なるからに他ならないわけなんだけど、この作品見たら、そんなの全然関係ないなって思わされてしまいますもん。とにかくこのおじいさんがカッコいい。まさしく現代の、ねずみ小僧次郎吉。彼が盗むのは、物でもなければお金でもない。人の心だ。ついつい、読んでるこちらも、心を奪われてしまいました。
「うん。絵に関しては作者はまだまだ発展途上な兆しが見えるが、物語の構成力については目を見張るものがあるな。1話目なんか、悪徳美術館館長に持ち去られた絵を奪い返してくるっていう、まとめれば只それだけの話なんだけど、それを見せ方一つでここまで魅力的なものにする手腕がスゴイ。依頼をするのが幼い姉妹っていうのも一定の効果を生んでるのかもしれないけどな。仕事人チックで、読んでて清々しくなれる。基本、勧善懲悪な処がまた、安心して読める要因でもあると思うけど」
3話目なんか、前後編に分かれてますけど、これ単体としては、ミステリとしても充分成立するくらい出来がいいですよ。連続発生する強盗事件と、それを追いかける有能な盗犯の刑事。犯人は「怪盗ハープ」を名乗るが、そこに本物のハープが登場し……とまぁ、この話だけでも長編が成立しそうなくらいなのに、短編として実にすっきりまとまっているのが素晴らしい。みんなこの作品、もっと読むべきだと思うのですが。
「モーニングに不定期掲載ってんじゃ、認知度上げようと思っても、さすがに無理だろう。かといって、連載を定期的に始めると絶対質が落ちるから、この作品、終わらない程度に人気が持続してくれれば、それでいいよ。俺が楽しめれば、当面はそれで充分だから」
あの……。このweblogの主旨、タカオさん本当にわかっていますか……。
- 作者: 高津カリノ
- 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
- 発売日: 2007/10/22
- メディア: コミック
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「んじゃ、次。絶好調のファミレスマンガ、でもファミレス以外の部分がやたら面白い高津カリノ『WORKING!!』4巻。これは素直にハマった。今までラブコメとかって苦手だったんだが、このマンガは全然別。そもそも、好きとか嫌いとか深刻な恋愛感情に思い悩んだりするのじゃなくて、あくまでバイト仲間っていう仲間意識なレベルでの人間関係が右往左往する程度なのが功を奏しているのかも。あ〜くそ。それにしても伊波まひるはカワイイなぁ。この娘と小鳥遊家との掛け合い話が、どうしようもなくマイ・フェイバリット。大のお気に入り。男嫌いなのに小鳥遊を好きになってしまった伊波さんが、顔真っ赤にしてあっち行ったりこっち行ったりするのが、読んでて身悶えするほどだわ。もう、ニヤニヤが止まらないよ」
少女趣味なのに男嫌いで暴力的っていうギャップがいいんでしょうかね。私にはよくわかりませんが。私としてはチーフと佐藤さんのどうしようもなく不毛な片思いのお話が、読んでてグッと来ますけど。でも確かに、小鳥遊四姉妹の話は、毎回きちんと面白いんですよね。今回は伊波ちゃんと次女の泉が初遭遇してますけど、お互いに相手のことを知らないまま核心を突く話をしているところが非常に愉快で、たまらなく和みます。奇人変人ばかりを配置したこの作品が、こんなに人間関係メインで展開するとは当初まったく予想していなかっただけに、嬉しい悲鳴をあげるところですよ。
「伊波が陥落、読者が撃沈した衝撃の3巻は俺の中では既に名作指定なんだが、続く4巻でここまでキッチリ面白く仕上げてくるところが作者の力量だろうな。今後も当然、追いかけるべき作品だわ」
この作品、カバーデザインは「よつばスタジオ」の里見英樹氏みたいなんですが、この人が手掛けた作品はどれもアベレージが高いマンガばかりな気がします。案外、中を読んでから仕事を引き受けてるのかもしれませんね。里見さん。何はともあれ、私も絶賛応援中でありますよ。『WORKING!!』って続きは気になったりする作品じゃないけれど、読んだら毎回すごく和むマンガなんですよね。こういう作品の方が、息が長く続いて、人に長く愛されるのかもしれませんね。そんなわけで、皆様に息長く愛されるよう、このエントリーも、また次回へ続きます。それではちょっと、ブレイクを。