読み逃している名作、ありませんか? 貴方に読ませたい、2007年マンガ作品紹介。
「やってしまって、それで事が済むものなら、早くやってしまったほうがよい*1」
新年を迎えて早々、挨拶も省略するといきなり、私の方を見てタカオさんは言いました。うん。この言葉、内容としては概ね間違ってはいないので、ここは素直に同意をしておくのが得策でしょう。たとえ、言葉の出自に少々引っかかる部分はあるとしても*2。
「キミも逐一、つまらない部分にひっかかる奴だな。そこは素直に流しておけばいいものを。とにかくだ。何事も、実行するなら早い方がいいと思うわけだ。思い立ったが吉日とも言うしな。つまりあれだ、2007年の総括をやるんだ」
あの〜。そういうのは通常、年内にやるものなんじゃないでしょうか。もう年越しましたよ? 全然早くやっちゃってないですよ。というか、思いつきで発言をしないでください。……で、こんどは一体何をするつもりなんですか? やっぱり――おすすめマンガの紹介なんでしょうか。
「おっ。なかなか勘が鋭くなってきたじゃないか、佐久良タン。そのとおり。なんだかんだ言って、キミも俺も小説なんか殆ど読んでなかったからな、昨年は。『何を読んで寝るのかって? 読んでいるのは、マンガだけよ』 そんな感じで」
マリリン・モンローですか、貴方は*3。まぁ、それはともかく、新刊ばかりに目を向けず、既刊作品にも紹介の場を提供するのは、良いことだと思います。年末・年始ってのはそのいい機会ですし。それじゃあ、張り切ってまいりましょうか、タカオさんが選ぶ、読ませたいマンガランキング、best10!!
「何言ってるんだ。キミも選ぶんだよ。お互いの意見をぶつけることで新たな発見をし、敷衍する。それがこのweblogの目的と主旨だろう」
えっ!? でも、私とタカオさんじゃ、本棚共有してるんだから、変わり映えしないじゃないですか、ラインナップなんて。まあ、やれといわれたら、やりますけど……でも、あまり気が進みませんね。なにせ、今年発表されたマンガを全種類読んだわけじゃないですし。あくまで私が読んだ中で、これは一読してほしいってものを挙げるに留まるとは思うんですが……。
「じゃあ、佐久良タン、まずはひとつめをどうぞ」
- 作者: 鈴木ジュリエッタ
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2007/09/19
- メディア: コミック
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私が選ぶ1冊目は、これですね。作者の鈴木ジュリエッタは、近い将来、絶対人気が出ると思うんですよ。というか、最近は普通に一般書店でも平積みしてたりしますしね。人間らしく振舞おうと頑張るアンドロイド・吉沢オデットが、自分がロボットであることを隠しながらも一生懸命高校生活を楽しもうとする姿が愛しくて眩しい、そんなお話です。今巻では、新キャラクターとして、孤独なお嬢様・白雪が加わり、新たな視点と人間関係が生まれたせいか、読みどころが抜群に増えてます。ロボットなのにクラスメイトと仲良くなってるオデットを見て、ひとりで勝手に落胆・嫉妬してしまう白雪の心情とか、非常に丁寧に描写されてるし、うまいと思いますよ。構図やコマ割りもシンプルで読みやすいし、少女マンガを読まず嫌いになってる男の人なんかに、ぜひ読んでほしい作品ですね。
「ひとことで言うと、初期『Dr.スランプ』のリアル学園ヴァージョン、みたいなノリだな。でも、このマンガは確かに面白い。『人とうまく交われない 欠陥品は私の方ね』(4巻・P.54)って白雪のセリフと心情表現も、実際にありそうで困る。しかし、それ以外にも素晴らしい部分があるさ。何がいいって、猫に“フニャラー”って名前を付けるネーミングセンスが最高。ネコ最高。個人的にはそこを評価したい! キラーパンサーの子供に“ゲレゲレ”って名づける以来の衝撃だったわ」
よりによって、そこを評価しますか。
「じゃあ、次は俺の番。霜風るみ著『eyesore 完全再録本(上・下)』 個人的には、ふかさくえみ名義で制作されたデジタル漫画『マルラボライフ』(ハイツ編、学校編)の方が様々な面において出来は良いが、あの作品もこの『eyesore』の下地があってこそだと思うんだ。時間旅行と並行世界をファンタジーというフィルターでくるんだ佳作なんだが、これは処女作としてはかなり高レベルな作品だったと思うよ。“時間・空間・因果律”って内容で、『YU-NO』のADAMSを連想するけど、かなりの面でアレに近いところまで肉薄していたように思う。ラストはちょっと、一気に風呂敷を畳みすぎた感があるも、勢いは抜群にあるのでそれはそれで良しと思えるし。この作品を現代に焼き直して、ファンタジーな世界観をSFに入れ替えたのがマルラボなんだとオレは解釈している。ちなみに、敵役のマクレル先生はマルラボでも再登場してるしな」
いきなり自費出版作品の、しかも再録本を平然と紹介している貴方が怖いです。まぁ、霜風るみさんは昨年商業誌でデビューもしてますし、その内この作品も単行本化されるときがくるかもしれませんね。本書を入手してない人は、せめてネット公開されている「マルラボライフ」だけでも読んでもらえればいいかな。あれも、油断しているとホロっとくる名作ですからねぇ。
「それはそうと、以前、マルラボ本の通販希望をメールしたとき合わせてサインをお願いしたんだけど、霜風るみさん、すっごく丁寧にイラスト付きで描いて下さったんだよ。なんでも、下書きまでしたって仰って。しかもその絵、特段なにも言ってなかったのに、ズバリ俺が1番好きなメイコとムイムイが描いてあってさ、物凄く感動したのを憶えてる。すげーすげーって、10分間くらい小躍りしたしなぁ。霜風さん、あの時は有難うございました!」
こんな辺境の地で御礼言っても、相手には届かないと思いますけど……。
- 作者: 小坂俊史,重野なおき
- 出版社/メーカー: 芳文社
- 発売日: 2007/07/06
- メディア: コミック
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それじゃあ、次。小坂俊史と重野なおきによるハーフ&ハーフな単行本『ふたりごと自由帳』です。登場人物に特異な人間は一人もいない。特別でもなくどこにでもいる普通の男と女たち。学校に行っては何かをつぶやき、会社に行っては昔を偲んで不意に悲しくなったりする。私たち人間はどうしようもなく、孤独なんです。でも独りだけでは生きてはいけない。不意に人恋しくなったり、懐かしんだり、寂しくなったりする。この本はそんな、出会いと別れと、人の思いが凝縮された一冊なんだと思います。たとえば、孤独と静寂を求めて雪国に一人で越してきた若い女性の物語「足跡読み」のモノローグ。「ある雪のやんだ朝 私は泣いた 憧れ続けていた 風景が 足跡ひとつない 大雪原が 私にただ 絶望的な孤独を 投げかけていたのだ 歩くしかなかった あ また涙が出た ありがとうございます いてくれて ありがとうございます」(P.89-90)。 「あ」が実にいいですね。次のコマで雪の上に足跡だけが続いている光景があって、そのあと、涙をぼろぼろ流しながら「ありがとうございます」ですからね。これは泣くよね*4。
「ちぇ、このマンガ先に紹介されたかー。でも仕方ない。この本は本当に名作だからなあ。『私たちはひとりである』という絶望と、『私たちはひとりぼっちではない』という希望とを、同時に表現している稀有な作品集だと言いたいね。『死』と『詩』の一冊と言ってもいいと思う。人と人とは、一期一会。生き別れでも死に別れでも、辛く悲しいのはどちらも一緒。別れるのが嫌ならば出会わなければ良いわけだけど、それでも人は誰かを求めて彷徨うし、恋することもやめようとしない。どんな形であれ、必ずいつかは別れの時が迫るというのに。それを、小坂の方は一歩離れた視点から、重野の方はホンの少しの優しさをこめて、描いている。この本を未読な人は、2007年に読むべき重要な一冊を完全に見過ごしてしまっていると言ってもいいだろう。それぐらい、重要すぎる一冊だな」
どうしてタカオさんは、作品を紹介するのにそう勿体ぶった表現をするのよ。単に、よくできた面白い本ですよー、って言えばいいのにさ。偏屈なんだから。
- 作者: 高木信孝
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2007/07/27
- メディア: コミック
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「いくぞ、俺のターン! ドロー、モンスターカード!*5 というわけで、紹介するのは、変化球的な一冊、高木信孝『でじぱら』2巻。このマンガはすごいよ。もう何度読み返したのか分からない。最近は、雑誌の電撃大王を立ち読みする際も、『よつばと!』飛ばして真っ先にこのマンガを開くしな。現実の技術革新というか進歩というか、ソレをリアルにマンガで追える楽しみがここにある! CEATEC があった翌月に、その時の目玉品がリニアに話題に上るなんて魅力は、なかなか他では味わえないと思うんだ。マンガとしては異常なくらいストーリー的な部分を捨ててる作品なんだが、その割に、完全なるエッセイマンガにも成りきっていない、この宙ぶらりんの絶妙な状態を維持するバランス感覚は大したものだよ。それに、AV倶楽部の三人娘もくっきり色分けしてあってキャラが掴みやすいしね」
シャープ好きの早川うぶき部長、ビクター好きの高柳てまり、ソニー好きの井深まれは。AV機器が大好きな三人娘と、話の流れで入部を余儀なくされた松下君。って、これ、苗字そのまま各会社の大御所から取ってるんですね。しかも、主人公の松下君は Let'note や viera といったパナ製品を結局選んで買ってるというオマケつき。さすが作者は電機販売業の経歴があるってだけあって、詳しいですね。
「いや、名前ネタ*6は日本人なら常識の範疇だろう……。それより、単行本2巻で注目すべきは、京アニのアニメ『AIR』(BD版)がいかに優れた作品かということを1話丸々ぶっ通しで語りつくしているところだろうに(例えば、本書P.109*7)。もはやマニアックの域を超えまくってるしな」
ややこしいAV機器の知識を、巧いこと萌えでからめてまとめ上げた作品ってところでしょうか。女性にはちょっとついていけない部分が多々あるように思いますけど、その点については、どうなんでしょうか?
「三人娘の中では、やっぱ断然部長がいいよなー。俺だったら、まれは みたいな百合娘じゃなく、断然部長に一直線だけどなー。部長かわいいよ部長」
ここはダメ人間製造所かもしれない…*8 (呆れながらも、次回に続く。)